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とりあえず、ここがスゴイ!舞台『俺節』 (ネタバレあり)

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安田章大主演舞台『俺節』を観た。2回観た。とてつもなかった。楽しみにしてきた何十倍も楽しかった。思い切り笑って思い切り泣いた。

観劇後、思ったこと。「皆こんな素敵なもの1週間も前から観てたなんて羨ましい…」「この作品の記憶がある人生で良かった…」「ヤスくんがこのお仕事に出会えた奇跡…」「……神様、諸々ありがとう」(雑な感謝)

好きすぎてバカみたいなので、もうとにかく今持っている感情を全て書きます。構成なんか知ったこっちゃないなぐりガキBEAT。ナンボのモンじゃい・ビート。

  

……という(アホ丸出しの)書き出しで感想を書いてたんですけど、書いても書いても書き切れません。登場人物、台詞、歌、場面、個人的な心情…あれほどまでに情熱燃ゆる作品、語ることは山のようにある…。

という訳でちょっと切り口を変えて、全体的なところから攻めていきたいと思います。

 

題して、舞台『俺節』のスゴイところ!とりあえず語ります。

 

◆目次

 

※ネタバレが含まれますので、観劇予定の方はお気を付けください※

 

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その1:演出がスゴイ

場面転換が多い。その度に舞台装置が動く。時に電動で?大胆に構造を変え、時に役者たちが手動で引いて登場しながらセットを引っ張ってきたりする。臨場感の出る小道具も充実していて、その場の雰囲気がガラリと変わる。ゴミ袋が無い『俺節』なんて考えられない。また、舞台の奥行を感じるセットの動かし方もある。変幻自在の俺節ワールドを舞台上に構築している。

セットがとにかく多く、主な舞台の一つである「みれん横丁」だけでも、違う角度からのものが2種類か3種類あるように見えた。そういうところから、作り手が長い時間をかけて脳内で想像を膨らませてきた漫画世界へのこだわりを感じることができる。

舞台上での段差の使い方が上手い。階段は何度も登場するけど重要な台詞を発するための効果的な舞台装置だし、セットの上下で違う時間軸を回想の解説という形で同時進行させているのも上手くいっている。

広い舞台上において、斜めを意識した構図がところどころ見られるのも面白い。上手下方でコージがへたっている時に、救いの神的にオキナワが登場するのが下手上方だったりするところ。コージが中央に居る時に、テレサが上手上方から手を伸ばし(ロミオとジュリエットのバルコニー的な)決して届かない距離を空間を使って表現しているところ。良い。

大がかりなセット転換を基本とする一方で、何もないところに演出する工夫もまた面白い。ファンサービス的な単なる通路降臨ではなく、ストーリー上意味のある通路降臨。まさか舞台に上がる小階段でいのち込めて歌うなんて思わなかった。あの近くの席に座った人、生きてますか?舞台に戻ったかと思いきや、逃げ去る2人がまた通路に降りた時には心臓がびくっと跳ねたし、自分が座っていた席の方角に進路を変えた時には卒倒しそうになった。この舞台には神席が、存在します。

プロジェクションマッピングを演出に取り入れているのも、最先端の芝居らしくて面白い。セット+映像表現でもはや無敵。現在地を示す、漫画の説明コマのような使い方をしたり、ビルの壁面に掲げられた社名になったり、全観劇者のトラウマになりそうな実物顔のオンパレードを映し出したり。

ドルヲタの方々が舞台を取り囲む配置も面白い。最前列に貼り付いた時、客席最前方の観客からの眺めはどうだったんだろうか?オキナワが人波をかき分けて登場するのも良かった。舞台を本物の舞台として見せるための工夫。そして、観客は観客役となり、観客役から観客に伝播する拍手。これ以上ないほどの臨場感。芝居がコンサートになる瞬間。

あと、気のせいではないと思うんだけど、途中の雨の日のシーンで、舞台側から冷たい風が吹いてきてるような気がするんだ。いや、気のせいかもしれないけど…。思い込み激しいタイプだから…。

しかし、これだけは絶対に間違いじゃない。「最後の雨のシーン、映像じゃなく本当の水を降らせている件」。初見時、度肝を抜かれた。いや、これ誰もが度胆抜かれたっしょ。小雨が降ってきた時には、少ししっとりとさせる程度の霧みたいな水を降らせるんだな、と思っていたら…いたら…。泉ピン子さんの目撃情報で「安田がすごいことになってた」と言いながら劇場から出てきた、なんてものがありましたが、まさにおっしゃる通りで、目の前で安田がすごいことになっていく。興奮。感動。恐怖。崇拝。安田も、TBS赤坂ACTシアターの舞台の床も、ものすごいことになっていくのを目の前で見守ることになる。雨によりコージの周囲の世界が閉じていくのと反比例して、すさまじい力を持つ歌が広がっていく。

豪雨で舞台も主役もギターもびしょ濡れ。これを1日2回公演やるという、もはや無茶。体調を心配する声の、本当の意味が分かった。 これを思い付いて、やらせた、そしてやりきると決めた、俺節スタッフ&キャストの熱意がすごい。

 

その2:歌の魅力がスゴイ

舞台『俺節』はミュージカルではない。しかし随所で歌が歌われる。歌無しでは成り立たない、歌う人たちの物語である。

歌が登場人物の心情を表す。現状を言い表す。物語を進める道具になる。誰かに伝えたい言葉を歌で代わりにする。武器にする。

秀逸なオリジナルソングに加え、既存の歌が沢山出てくる。演歌の物語、とは言うけれど、そのジャンルは演歌だけに留まらない。歌謡曲が多いかもしれない。心を込めて歌い上げる。

世相を表す曲も多く登場する。架空のアイドルグループ「プラネット・ギャラクティカ」は厳密には時代がずれるけどモデルは光GENJIだろうか。しかし業界人の噂話という流れで普通に光GENJIの名前出てるんだけどなぁ。ジャニーズタレント主演舞台でがっつりジャニーズっぽいのと戦わせるセンスがまた良いよね。

実在の歌手がそのまま実名で出てくるのがまた面白い。「あの人って…」「千昌夫だろ」と「千昌夫の連絡先…知ってるか」は秀逸。「サザンの『真夏の果実』12回歌ったんだぜ」からの「しろくじちゅうもすきーと言って♪」スキップルンルンは北野先生のおちゃめなキャラクターを上手に彩った曲だったと思う。勿論それだけじゃなく「あの曲今年レコ大獲るぜ」の台詞が、時代設定の導入の役割を果たしていることにも触れておきたい。でも今調べたら、1990年のレコ大大賞は実はこの曲ではなく『おどるポンポコリン』だったそうな。デッドヒートの末競り負けたらしい。ということは、当時を知っている人ならば、「あの曲レコ大獲るぜ」の台詞は既に予想外れであり面白い訳だ。

あと、矢沢栄吉『アイ・ラブ・ユーOK』の替え歌でオキナワが「アイ・ラブ・ユーOK ヒマすぎるぜ~♪」と歌ったのもクスリと笑えた。パンフレットの使用曲一覧に載っていない曲が幾つかあるけど、この曲もその一つ。コージの歌う石川さゆり2曲(『津軽海峡 冬景色』『天城越え』)もパンフ未掲載。アドリブだったり稽古場で決めた曲だったりしたら面白いな。『津軽海峡 冬景色』のあのファルセットのところがめちゃくちゃ絶品だったから、生きてる間にあと10000回は聞きたい。

歌がすごいのはコージだけじゃない。テレサの歌がものすごい。

原作ではフィリピーナなテレサがウクライナちゃんになるのは、原作ファンの方からすれば微妙かもしれないけれど(掟ポルシェも言ってた)、随所の鼻歌の清らかさ、そして終盤の歌声で確信する。この舞台におけるテレサは、シャーロット・ケイト・フォックスに委ねて大正解だったのだと。音程も、声量も、歌の表情も、余韻も、何もかも持ってる歌声。シャーロットさん本当にすごい。

『北国の春』。「帰りたくても帰れない」この歌を物語の核に持ってきたのは大正解。北国育ちのテレサとコージを結び付けた歌。(←橋本さん「私の故郷の山梨も雪降るよー!寒いよー!おんなじだねぇー!」笑)。コージが5万円分の歌を聞かせようとした歌。テレサがコージに決定的に惹かれた歌。テレサがそっくりそのまま真似(揺さぶるところまで)して覚えた歌。歌詞の意味も知らなかったけどテレサの心がそのまま映し出された歌。いつも、いつもいつもいつもいつも、テレサの頭の中で鳴り響いていた歌。コージの歌が「歌」になった歌。前後で歌うことになるのが千昌夫つながりの『星影のワルツ』なのも憎い。(この曲の歌詞もまたずるい)

一つ一つ曲を挙げて語っていくとキリがないので、曲についてはまたの機会に感想を述べたい。けどこれだけは伝えたい。

『俺節』は、メインキャストもアンサンブルも含め、カンパニー全体の歌のレベルがマジではんぱない。歌手役の人も、街角の人も、めちゃくちゃ上手い。それは音程とか声量とかハーモニーとかそれだけが理由じゃなくて、なんというか、魂が籠っているのである。誰一人、手を抜かない。誰一人、気を抜かない。この舞台にのぞむ人は全員、「歌は心の叫びである」というこの物語の主題をよく理解して演じているのだろう。それを体現できるキャストを揃えたことに拍手を送りたい。

そんなキャストたちが一つになって歌う『みれん横丁のテーマ』は、生きづらくて、泥臭くて、悲しい気持ちの人々に寄り添う歌である。そして力強く戦う「民衆の歌」である。

 

その3:登場人物と役者の魅力がスゴイ

もはや主役からして勘弁してほしいくらい、この限られたスペースで語りきれる気がしていない。とにかく、どの登場人物も魅力的なのである。暴力があるわ売春があるわ、かなりダークな世界観なのに、コミカルに見ることができるのはひとえにキャラクター達のおかげである。

まず主役のコージ(安田章大)、可愛い。もうとにかく可愛い。これは安田担の贔屓目ではない。いや、あるかもしれないけど、それだけじゃない。めちゃくちゃ可愛い。安田章大さんという人はカワイイを作るプロだから!他人とちょっとずれたおとぼけの可愛さと、一途な気持ちで夢と恋を追いかける純真さと、歌に懸ける熱い情熱。ギャップだらけで構成されたコージが魅力的でないはずがない。誰よりも可愛らしく誰よりも漢らしいコージを、登場人物たちも観客も応援したくなる。そんなキャラクターを舞台上に形成してみせた役者・安田の力量にまず唸る。いのちを削って吠えるように歌う、彼のコージは滑稽なほどに懸命で、勇ましい。

テレサ(シャーロット・ケイト・フォックス)。単なる相手役ではなく、彼女がこの舞台の裏主役であると思う。とかく人の心に飛び込んでくるような真っ直ぐな名台詞が多い。シャーロットさんが思ってたより片言なのが良かったと思う。あの発音の拙さまで含めてテレサとして愛おしくなる。コージの歌に惹かれ、コージの歌を引き出し、コージの歌を支え、コージの歌に支えられて生きる人。私たち観客はコージのファンにはなることができるが、コージの原動力になることはできない。「幸せになんなきゃ、嘘だかんね」と言わせるほどに、コージとテレサが出会えて本当に良かったと思えるカップル。

コージの相棒、オキナワ(福士誠治)。実質的に彼がストーリーを進行させる役割を担う。たぶん原作だともっと深みがあるんだろうけど、この舞台ではオキナワはコージのためのキャラクターに留まる。コージについて描き切ることはできていたし、それでよかったと思う。彼はとにかく、ところどころのツッコミやボヤキや小ボケが上手い。笑いを取るための台詞はともすればテンポを悪くしがちなのに、流れを妨げることなく笑える台詞を差し挟んでいくのが上手い。彼がギターをかき鳴らすと世界が変わる。歌も上手い。シルエットがオキナワとして完成している。単なる進行役にも便利キャラにもならずに、『俺節』に欠かせない人物であることが充分に伝わってきた。

北野波平先生(西岡徳馬)も、流しの大野さん(六角精児)も好き。重厚かと思ってた西岡徳馬さんの役がおちゃめでフットワークが軽くて、コミカルなのかと思ってた六角精児さんの役が物語に悲哀を添えるという嬉しい誤算。

密かなお気に入りキャラは、レッスンのナホ先生(桑原裕子)。ポカポカポカ(笑)。役名の「才原」という記載がナホちゃんなことにしばらく気付かなかったんだけど、桑原裕子さん多彩すぎて震える。

というか、メインキャスト(この他に、高田聖子さん中村まことさん)でもコージ、オキナワ、テレサ、北野波平先生を除いた全ての役者が一人二役以上をこなしている。そして、アンサンブルの人は多い役者さんで11役くらい演っている。早替えがものすごい。帝劇レミゼのパンフに載ってた香盤表(メインキャストが何処でアンサンブルとして別役を演ってるか分かる進行表)が大好きなんだけど、この舞台もそれがあったらめちゃくちゃ面白いと思う。パンフレットの1ページにさらりと書いてる役名めちゃくちゃ楽しいから皆見て。警官は(肩こり)と(眼精疲労)と(禁煙中)と(二日酔い)がいるけど、一体どれがどの警官なのかめっちゃ想像広がる。たまに、え?こんな人居た?みたいな人*1も載ってる。きっと傍目には分からない裏設定が色々あるんだろうなぁ。生きてる感じがすごくするんだなぁ。

もう、とにかくこのアンサンブルの人たちが魅力的で、特にやっぱり、みれん横丁の住人が一人一人魅力的すぎて目が離せない。今のところあと1回しか観劇予定が無いのでメインキャストを中心に見ることになるだろうけど、できればあともう1回増やしてアンサンブル中心にじっくり観たい。お気に入りは、たぶん人気高いだろうけど、陛下かな。陛下が出てくるとワクワクするよね。何を喋り出すのか期待するし。喋った挙句が「順番を決めよう!」だったりするけど(笑)。みれん横丁の人(おっさん)たちがドルヲタ役(女装)して演ってるのとかも、真面目にふざけてて本当に最高。

 

結論

→俺節はスゴイ

観た方なら分かると思うけど、今回書いた感想は、ほとんどと言っていいくらい大事なところに触れてない。胸を熱くしたあの場面も、心を痛めたあの台詞も、涙したあの歌も。私が受け取った『俺節』の魂は、本当はこんなものじゃない。こんな淡々と語れるはずがない。

ということで、歌と物語、キャラクターと台詞、安田章大と海鹿耕治の生き方、などについてはまた別に語りたいと思います。できればその時までに、「すごい」「やばい」「泣いた」以外の語彙で感動を語るスキルを身に付けたい。

 

とにかく、すごくシンプルに言うと。

舞台『俺節』はスゴイ。スゴイんです。原作ファンにも、役者ファンにも、演劇好きにも、音楽好きにも。あらゆる人にオススメしたい。少しでも興味のある方は、当日券でぜひとも!観て損はない、贅沢な3時間半です。

観客の心をただただ揺さぶる、良い作品です。

 

…ありがとう『俺節』。ちゃんと届いてるよ。

 

*1:アンサンブルに「マンボ好塚」という役名が載ってるんだけど、これは『俺節』原作・土田世紀先生の別作品『編集王』の主人公の名前らしいのね。カメオ出演みたいな遊び心なのかな。原作ファンの監督のこだわりなのかもしれない。しかしどの人がそうだったのか、全然分からない…。