雨の降らない星では愛せないだろう?

ハロー!プロジェクト、関ジャニ∞、フィギュアスケート、その他つれづれ

「少女都市からの呼び声」東大阪市文化会館 2023.8.20

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事前情報は「巨匠」の「夢系」というだけ。それでまず苦手意識をもって臨んだ。理解できるのか、受け止められるのか、好きになれるのか。結果として、好きにはなれなかったし、受け止め切れない部分も多かった、けどカーテンコールが始まるまでには何かが「理解できた」そんな気になれたのも事実。すごい。分からなかったけど、分かった。そんな2時間。

THEアングラ的な苦手な要素(欠損、下ネタ、禁止用語、アドリブ時事ネタしかも今日は戦争や犯罪企業いじり)てんこもり。醒めない悪夢系のストーリーは本当に不安になるし、筋書き立てて進まない話はずっと脳が落ち着かなくて特に演劇で観るのは想定通り合わなかったんだけど、アリサワと病室のところに舞台が戻ってきてからようやく田口とユキコという人物の正体、夢の発端と思われるアリサワに対する田口の深層心理(冒頭で述べてたアリサワからの田口に対する複雑な想いともリンク)、物語全体の輪郭構造が自分の中にすとんと降りてきて、納得感と圧巻。

最後のビー玉の演出にめちゃくちゃ圧倒されて、逆にラストシーンがどんなだったか記憶が曖昧だったりするんだけど(連隊長と幼児だったか)、お気に入りのキャストさんも見つけられて(出口稚子さんという方だった、赤玉)、咲妃みゆさんがとっても素晴らしかったし、勢いのまま観劇後にパンフ購入。

読んで「お寺の塔」と思って見ていたのが「オテナの塔」だったと知る。しかしあの、老人2人のシーンは笑いよりも不気味さ(「じめじめした陽気だなあ」)が勝ってしまった。どこまで頭が冴えてるのか掴めない感じがこわい。アドリブだろう台詞やダチョウ倶楽部仕草もあまり笑えなかった。ここの場面は笑って良いシーン、と切り替えられる観客の方々すごい。しかし風間杜夫さんの物真似をしていて、観に来ているのを知ってびっくり。出演されてない期間だったから。カテコ中にこっそりお姿を窺うと確かにおられた。

とにかく咲妃みゆさんが印象的。バレエシーンはまさに夢のような美しさだった。この役を演じるにあたり捨てなきゃいけない部分があったと思うけど、捨て身なだけじゃなく自分を保ったまま役を引き寄せる強さのようなものがあると感じた。要は、脚を見せようが股を開こうが役のために身体を売り渡してしているようには決して見えない高潔さがあって感心した。いわゆる女優魂というものも、人によるんだな。難しさをやってのける確かな自己。

最後の病室で、髪の毛だけが田口の上に盛ってあると思いきや、ユキコだったのには肝冷えた。ユキコ、パンフで「雪子」だと知る。そして諸々の納得がいく。咲妃みゆさんが出てるシーン全て圧倒的、というかもはや主演では?雪子の話すぎた。ウイスキーを勧める最初のシーンから、正体不明、田口との関係も時折あやしすぎて訝しいんだけど、あの美しさに魅入られてしまう。触れるだけで割れてしまうガラス、が悪夢そのものあるあるすぎて想像して心臓バクバクする。

あとビンコさんも、現実世界の人なのに不気味さある。牛乳ビンにビー玉を閉じ込めて一心不乱にフリフリするところ。そもそも目覚めて大団円ではなくて幼児たちとかもこわいしこわい。

最初に出てきたきりのものって気になるから、手術や親友はどうなったんだよというモヤモヤが晴れてからは少し見やすかった。親切な演出により背景にラムネの瓶が映されていたこともあり、ビンコさんとビー玉でラムネのモチーフか、と理解できた気がした。あと夢の中でもフランケと雪子が、現実でもアリサワとビンコがそれぞれ「フィアンセ」というのが分かりやすいキーワードかなと。

それにしても安田さん出演作品でいつもかっさらっていく桑原裕子さんが劇中一のトリックスターじゃないのがどうかしてるというべきキャラ群で、何もかもマジ狂ってる。どうやったらこんな脚本が書けるのか。10回生まれ変わってもどの台詞も書けない。雪子の気に障る子宮虫たちを外に出す時にフランケが言う「空気と一緒に外に出といで」みたいな台詞があったと思うんだけど気に入りました。何処かで使いたい。

子宮虫さんたちみたいな謎取り巻きって演劇とかによく出てくるイメージだけど、一人ひとり表情も違うし動きに目を惹かれた赤玉さんをずっと見てた。すごくキュートでコケティッシュ。フランケみたいな理不尽なキャラに苦手を感じること多いけど、おかげで楽しく見れた部分がある。

連隊長さんもすごく物語が締まる存在だった。満州とか、帰還できない兵とか、そういうのなんていうかズルいよなぁと思う。今の人には描けない描写。兵の幻や幽霊が頭の中に生きている人、現代には多くないのではなかろうか。

田口は田口でなかなかクセ強めで、狂ってると夢にはっきり告げるのだけど連隊長の格好しちゃうところなんかは結構突飛。連隊長の演技する演技、かわいかった。雪子に親愛だけではない性愛も抱いているようで、見ていて取り込まれそうでこわかった。指を捧げてしまう危うさ。でも小指は約束の指だから、その純粋さが雪子と共に現実に帰還するきっかけになって良かったと思う。

買って帰ったパンフを読むとあっさり「二卵性双生児」と説明されているけれど、ガラスのヴァギナを触らせたり、押し倒したり、アパートで押し入れに追い込んで犯すなんて台詞が出るのは夢の中とはいえ兄妹の関係として不穏すぎる。ましてや実体のない妹と想像上でというのは余計にあやうい。

しかし、観ながら「あ〜この世界、安田さん、好きそう」とつくづく納得できたのだった。生死、性、愛、命がけ。『マニアック』の目指したものよりも更に狂っていて、これくらいの突き詰め具合の方がいっそ受け入れやすかった。生きてもがいて「愛している」を実感する舞台、とても彼のパーソナリティと合っていた。舞台役者としてこのテーマにとことん向き合っているように見受けられるし、ファンとしても付き合っていくべきシチュエーションなのだな。関係ないけど、なんで安田さんがここのところロングヘアーだったのか、百聞は一見に如かず、役を見て納得がいきました。

満足感の高い観劇だった。6列目という低位置にてあのビー玉の演出を浴びられて満足。あの暴力的な美の波が迫ってくる瞬間に、襲われて、取り込まれる、と本気で怯えたあの時わたしも彼らの世界に居たのでしょう。それは無い世界ではなく在る世界だったと思う。今夜は夢見が悪そうだ。たぶんそれで良いのだ。おやすみなさい。


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追記

やっぱり『マニアック』に似てたねとの感想を友人が述べていて、その場ではそうだね、と同意したものの。(もちろん『マニアック』「が」この作品のような世界観を目指していたんだろうけれど)遥かに次元が違うとやはり思う。

悪ふざけや悪趣味に終始してたら嫌いにもなれたけど、作為的でないことがむしろ空恐ろしくなるこの感覚。そうか、B級かそうでないかの違いか。

性的にドギツイ言葉たちも、観客をただきまりわるくさせるためだけの台詞じゃない。それだけに、唐突なパンチラなんかは無い方が好みだったなと惜しく感じる。

完全にフィットすることはできない、自分とは別世界だと線を引いておきたいような世界。旧き悪しき見世物小屋のような演劇だった。